神話的で、パワースポットとしての謂れもある島ですが、サイクリストにとっては「さあアワイチが始まる」というスイッチを入れてくれる島。明石港から淡路ジェノバラインに乗って岩屋港に到着した場合、すぐにその砂岩の小島が目に入ってきます。凹凸のある島肌は太陽の角度によって色が変化します。島の頂上にある鳥居と石碑、その向こうに見える明石海峡大橋をフレームに入れて撮影。
スマホで
淡 路 島
日本で最古の歴史書「古事記」の冒頭を飾る「国生み神話」。
そこには伊弉諾尊・伊弉冉尊の二柱の神様が生まれたばかりの混沌とした大地を、天沼矛で「塩コオロコオロ」とかき回すと、矛先から滴り落ちた塩の雫が固まって「おのころ島」ができたと記されています。
おのころ島で夫婦となった伊弉諾尊・伊弉冉尊は、日本列島の島を次々と生んでいきます。
その中で最初に生まれた島が、ここ淡路島です。
アワイチ
京阪神のサイクリストにとって馴染みのあるアワイチという言葉。文字通り「淡路島一周」を意味するアワイチに、大阪在住の私も例に漏れず昔から親しんできました。いつも口を開けて見上げてしまう明石海峡大橋を渡ると、そのアクセスの良さからは想像できないほど風光明媚な島が広がります。
初心者にとっては挑戦的で、中級者にとっては世界を広げる場となり、上級者にとっては鍛錬の場となる150kmという距離。ペースが速くても遅くても、一人でもグループでも、春でも夏でも秋でも冬でも、いつ訪れてもアワイチを終えた時の充実感は抜群です。仮に一周できなくても、レベルに合わせてショートカットできることも魅力の一つです。
サイクルフォトグラファー 辻啓
"アワイチ"を
走って撮ろう!
「一般的な時計回りのアワイチの場合、いつも視線を左に向ければ青い海があり、
平坦路だけでなくアップダウンが組み合わされるバリエーションの豊さ。
フォトグラファーという職業柄、いつも撮影場所や撮影アングルを探しながら走ってしまう。」
という辻啓氏が、ハッと立ち止まりたくなったロケーションを紹介していきます。
海岸線を走るアワイチでは、いくつもの鳥居や神社を目にします。その中でも鳥居と道、海を同時に撮れる数少ないポイントがこの釜口八幡神社の鳥居。丘の上にある八幡神社への入り口を示すもので、場所は釜口交差点の信号を過ぎたところです。スピードを乗せやすい平坦路なので素通りしがちですが、通り過ぎる仲間を鳥居と海とともに撮ることができる数少ないポイントです。
いわゆるインスタ映えと言えば2019年に設置されたAWAJIモニュメント。宿泊施設「グランアイガ」の敷地内ですが、ありがたいことに入場が許されています。幅10メートルもあるモニュメントの裏側には梯子状のステップが付けられているので、AでもWでもAでもJでもIでも、好きなアルファベットに登ることができます。グループライドの場合は集合撮影に最適!
「洲本市の綿産業関連遺産」の一部で、赤レンガ造りの建物が並ぶ一角にあります。どの建物も立派ですが、洲本図書館入口の広間にある赤レンガ壁は迫力満点。タイムスリップしたような錯覚を味わえます。ちなみにドラクエの生みの親である堀井雄二さんが洲本市出身であることから建立された、すぐ近くの「ドラゴンクエスト30周年記念碑」もゲーム好きサイクリストにおすすめです。
苦しい立川水仙郷のアップダウンを越えて、直線的なオーシャンロードを走った先にある黒岩地区の突堤。外洋に突き出た突堤からは、沖に浮かぶ沼島や、遠くに紀伊半島を眺めることができます。入口には石が堆積しているのでロード用シューズを脱いでアプローチ。見下ろすとそこには大小様々な魚が群れをなして泳いでいることもあり、自然の豊かさを感じることもできます。
アワイチの中で最も厳しいヒルクライムが、10%以上の勾配が延々と続く通称「灘の坂」です。勢いで登ってしまえない時は、撮影を言い訳に休憩しましょう。すると背後には沼島と青い海が。勾配がきつくて高低差があるので、通ってきた道を眼下に見下ろす形になります。グループライドの場合は仲間の苦しい表情を撮影できるチャンスです。
東に1.5kmほど離れた若人の広場公園とともに、この南あわじ展望台は大鳴門橋を眺める絶景スポットです。どちらの方向からアプローチするにしても登りをこなさないといけませんが、その2つの展望台からは美しい風景が。道側と広場には高低差がついているので、大鳴門橋をバックに集合写真を撮りやすいのもポイントです。
大鳴門橋のすぐ近くまで歩いて行くことのできる道の駅うずしおは、近畿地方の中で最も四国に近い場所。名産品の玉ねぎを模したベンチは淡路島らしさ溢れるものです(ロケ時は眺望の良いベンチが工事中)。座って撮るも良し、バイクを立てかけて裏側を撮るも良し。道の駅に向かう際のアップダウン区間はアワイチの中で最もダイナミックです。
淡路島を代表する景勝地である慶野松原もぜひ立ち寄りたい場所。防風林の役割を果たす約5万本の淡路黒松林を抜けると、夕暮れ時に太陽を浴びることになる淡路島西岸の美しい砂浜に出ます。白砂に覆われた全長2.5kmの砂浜での撮影はもちろん、好みの曲線を描く松の木を選び出してみては。
明神岬の頂上に位置する住吉神社の参道を左に逸れてぐるっと回り込むと、美しい白岩の風景が目の前に現れます。バイクの撮影場所は限定されますが、巨岩を真っ二つに割ったような洞窟状の切れ目まで小径が続いているので一見の価値あり。足場が悪いのでロード用シューズのソールを傷つけないように注意が必要です。
県道31号線は淡路サンセットラインと呼ばれているように、夕陽が映えるロケーションが揃います。淡路島西岸に点在するいくつもの海水浴場の中で、トイレも近くてよく整備されているのが多賀の浜海水浴場。遠浅のビーチとヤシの木が迎えてくれます。ここまで来れば道の駅あわじまで残り24kmほど。交通量が増えてくるので最後まで気を抜かないようにしましょう。
アワイチの終わりが近づくとともに徐々に大きくなってくる明石海峡大橋の姿。道の駅あわじに帰着すると達成感に包まれますが、すぐに帰路に着くのはもったいない!せっかくなので明石海峡大橋の真下まで行って、世界最長の吊り橋を眺めてみましょう。ちょうど橋の真下に行くと、巨大すぎて遠近感が掴めない左右対称の写真を撮ることができます。
1983年6月28日生まれ
サイクルレースフォトグラファー
Instagram:@keitsuji
2009年から海外レースを中心に撮影を行なうフォトグラファー。
イタリア留学時にのめり込んだロードレースと学生時代から続けた写真撮影がいつしか結びついて現在に至る。
撮影、執筆、解説など、手段を選ばず自転車競技の魅力を伝えることを信条とするサイクリストであり、これまでに10回以上アワイチをこなしている。